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2016.07.13

生肉の誘惑~冷蔵庫神話の崩壊(2)

日本は生食文化大国といっても過言ではないほど、代表的な料理メニューの中に、寿司、すきやきを筆頭に、魚、(一部の)肉、たまご、野菜・・・など食材を生のまま食するメニューが多い。海外から日本に遊びにきた外国の方は、だいたいこの“生食文化”に驚くという。生で食べられる=新鮮な食材 だと私たちは思いがちだが、本当にそうだろうか?

そこで肉メディア.comでは改めて、この生食、特に肉にスポットをあて、考えていきたいと思う。

生肉の誘惑~冷蔵庫神話の崩壊(2)

安全第一でお願いします

いい“大人”になってからというもの、意識的に野菜ばかり食べていた。美味しいからじゃない。最上位にある理由は、ズバリ「健康と美容に良さそう」だからである。
もちろん、美味しい野菜は存在して、それは本当にありがたく頂く。しかし東京において運送費をかけ、はるばるやってくる野菜はコスパが悪いのだ。やっぱり「ああ、幸せ」としみじみ思い「生きている」と血潮がたえぎるのは、肉なのだ。しかも生っぽいもの!

 

というのも最近、疲れたカラダを幸福感で満たしてくれた肉があったからだ。「これ、マジで美味しくないですか?」と繰り返す、肉知識が最弱な私に「それが熟成肉ね」と、食のプロと呼ばれる皆さまが、優しく忠告。そう、熟成肉だった。
ブームであることは知ってはいたが、食べたのが初めてだったもので、すみません。ちなみに旨みが凝縮されたその肉は、やわらかく濃厚。周囲は茶色く、断面はほぼ赤く、完全にレアな見た目だ。

 

そう今回の連載テーマは、食の安全である。つまり「この生っぽい肉って、大丈夫なのか?」を素人目線で知っておきたい。編集部の重鎮や先輩ライターに聞いた。
結論から言うと、プロの手にかかれば、飲食店で安全に非常においしく食べられる。
ただ熟成肉にはっきりとした定義は無く、概ね共通しているのは、低温で長期間、熟成させて美味しくなった肉だということ。作るための条件(温度や湿度、熟成期間)も、お店によってさまざまだった。
また熟成方法には、温度と湿度を管理して行うドライエイジング(干物みたいなイメージ?)と、真空状態で冷蔵保存するウェットエイジングがある。
アメリカでメジャーなドライエイジングの場合、乾燥した部分をがっつり4割ほどトリミングした残りの部分を食べることになる。捨てられなかった残った肉は貴重だ。腐ってしまって捨てる部分は、もったいない。さらに温度管理や菌が繁殖することを考えると、家では絶対に作れない。いや作らないことが賢明だ。

 

つまり熟成肉に関しては、信頼できる飲食店を選んで食べることで、安全面をクリアしたい。熟成は腐敗と紙一重だ。

セルフ低温調理の限界

しかし生(っぽい)肉といってもいろいろある。昨年の春に「遠足のお弁当に、お金持ちっぽいから絶対にローストビーフがいい」というリクエストが小学生の息子からあった。懇願され続け市販のものを「保冷剤で重っ!」な状態で別の容器に入れ、熱を遮断して……と、かなり面倒だったのでお弁当には、お勧めできない。そもそもお弁当は、肉に限らず、食中毒が大好きな「栄養」「水分」「温度」の要件を満たすため、この環境に長く置かないよう気をつけたい(おかずもご飯も、冷ますことは必須)。代表的な食中毒菌は75℃、1分間の加熱で死滅するが、中には熱に強い菌も。すぐ食べない場合は冷蔵することを心がけたい。

 

 

話を生(なま)肉に戻すと、ローストビーフは低温調理による肉メニューの代表だ。レシピ紹介サイトでは数多の低温調理レシピが紹介されている。つまり低温調理なら生っぽい肉が家で作れるのだ。
低温調理とは、肉の成分を壊さないようにじっくり低温で加熱する料理とのこと。一般的にはタンパク質が固まる60℃前後で調理する手法のことをそう呼んでいる場合が多い。
タンパク質が固まるギリギリの低温で長時間加熱するためには、たとえば肉を真空パックして、その後、お湯や電機炊飯器で一定の低温で加熱する。そのため肉の場合は、真空調理とも呼ばれているが、これらの調理方法にも特に定義はない。ある意味、自由だ……。いろいろな情報をまとめると、表面をきっちり焼いて、内部温度を60℃台に一定時間とどめる、適切な衛生管理をするなどの条件をクリアするなどして、やっと安全に低温料理の肉が食べられると心得たい。

ただわが家に食品用の温度計はない。衛生管理も自信が無い。でも、いつもピカピカな台所で温度計を使っている義母のローストビーフは子どもも大好物だ(ちなみにプロはスチームコンベクションを使い、温度管理と時間管理も機械で行なう)。特にこの季節、せっかく低温調理で作った“鳥ハム”(肉メディア常連ライター・松浦達也さんの著書「大人の肉ドリル」を愛読する大雑把な夫が作る)も、夫の加熱が甘いと判断したときは、子どもには醤油風味に焼いて食べさせている。
しかし大人なんだし、もう少し勉強して、生な肉を攻めていきたい。次回は、肉のプロの意見を交えつつ、生の肉のリスクやレストランでの食べ方について紹介する。

 

※低温調理に関する過去の記事はこちら。
食と科学のおいしい関係(3) 「低温調理は本当においしいのか?」
http://www.nikumedia.com/article/column/724/

 

※出典:食品衛生の窓(東京都福祉保健局)

http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/rensai/guide11.html

 

 

(取材・文:三宮 千賀子)