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2016.10.07

イエニクのススメ 生姜焼き編 第1回

イエニクの生姜焼き編!「大人の肉ドリル」でおなじみ、松浦氏がお家でおいしいお肉料理を満喫できる肉レシピを公開!

イエニクのススメ 生姜焼き編 第1回

奥深い生姜焼き

「豚肉の生姜焼き」は変幻自在である。可変領域とも言えるパラメーターの多さは他の肉料理には類を見ない。

 

使う肉の部位だけでもロースにモモに肩ロース、バラ肉などなど……。きっちりカットされた「生姜焼き用」から豚小間、切り落とし肉までその形状もさまざまだ。厚切り肉を使えば「ポークジンジャー」とその名前さえ別物になってしまう。

 

調理法となると、さらに無限に枝分かれする。大きなところでは、「下味の有無」「タレの味つけ」「玉ねぎの有無」「粉の有無」といったところだろうか。そもそも前提としての「相方はキャベツかごはんか、それともビールか」問題や、「マヨネーズを添えるか添えないか」問題など、生姜焼きを取り巻く問題は多岐に渡り、その根は深い。生姜焼きの海はあまりに広大なのだ(きりがなさすぎるので、前述の厚切りポークジンジャーについては別の機会に譲ろうと思う)。

 

まずは下味の有無から整理したい。世には豚肉に下味をつけない「タモリ式」もあるが、下味に漬けるスタイルも広く親しまれている。前者は豚肉らしい味わいがしっかり感じられ、後者は調味液に含まれる塩分などで、肉のたんぱく質が変性し、独特の味と食感が得られるようになる。調味液の味わいでも、肉質を含めた味わいは微妙に変わる。いわゆる「おふくろの味」になりやすいのは後者かもしれない。

 

次はタレの味つけだ。味の土台は醤油だが「生姜焼き」だから当然、生姜の辛味は加わる。しかし! ただ辛いだけでは万人からの支持が得られないのは、人も料理も同じ。清涼感あふれる辛味をやわらげる甘味が加わることで、生姜焼きはお年寄りから子どもまで万人に愛されるものになる。その甘味も砂糖、みりん、はちみつのほか、りんご(ジュース)のようなフルーツなども視野に入る。やさしさの形は人の数だけあるのだ。

 

そこに玉ねぎが割って入るかどうかは悩ましい。ここばかりはスタイルが如実に分かれるからだ。純粋に肉を味わいたい“純肉派”と、シャクッとした食感や味わいのアクセントも楽しみたい“貪欲派”という流派の違いがそのまま玉ねぎの有無に直結する。もっとも「有」の貪欲派にしても、玉ねぎのカットはスライスか串切りか。その厚さは? 炒め加減は? などその様式は千差万別と言っていい。

 

そして最後に「粉」である。上記の「玉ねぎなど邪道」という純肉派にも「粉は例外」という向きもいるが、一方の玉ねぎを入れる貪欲派からも「粉など邪道だ」と気炎は挙がる。何が邪道で何が王道か。そこに万人が納得する解答などなく、すべての生姜焼きは正しい。確かにそれはそうだろう。だがそれでも敢えて「王道生姜焼き」を追い求めてしまうのが人の性。次回以降「下ごしらえ」「焼き」などのステップごとに最適解を追求していく。

 

 

※2008年に放送された『タモリ倶楽部』内のコーナー「どこでも酒場シリーズ最終章!? ついに台所で飲む」で紹介されたレシピ。豚肉はタレには漬け込まない。豚肉に小麦粉をまぶし、油をひかずにくし切り玉ねぎとともにフライパンで焼く。そこに調味ダレを合わせるというもの。放送から8年以上が経過しているというのに、いまだに各所で人気の高い伝説的レシピ。

松浦 達也

松浦 達也

東京都武蔵野市生まれ。編集者・ライター。さまざまな「食」を「食べる」「つくる」「ひもとく」フードアクティビスト。調理の仕組みや科学、食文化史などを踏まえ、『dancyu』などの料理誌から一般誌、新聞、書籍、Webまで幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオなどでは食のトレンドやニュース解説も。近著の『家で肉食を極める! 肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(マガジンハウス)ほか、自らも参加する調理ユニット「給食系男子」名義で企画・構成を手がけた『家メシ道場』『家呑み道場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)はシリーズ10万部を突破。

ブログ「うまいものばか!」

http://umaimonoholic.blogspot.jp/