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2016.11.04

和牛を知る 日本の牛を守れ編

日本が誇る特別な牛肉、和牛。普通の国産牛とは育ちも血筋も違う、高級な牛肉だ。この和牛について前回に続き、基本的な知識に加え、海外での「WAGYU」事情について、さらに追ってみた。

◎和牛を知る 基本編 http://www.nikumedia.com/article/column/1321/

和牛を知る 日本の牛を守れ編

知ろうとしない、罪深き消費者

「だまされやすい」という表現には、語弊があるかもしれないが、とかく牛肉は分かりにくい。国産牛イコール、すべて和牛ではないし、和牛は「黒毛和種」だけじゃなく「褐毛和種 」「日本短角和種」「無角和種」の4種がある。

さらに日本三大和牛といわれる「松阪牛」「近江牛」「神戸ビーフ」だけではなく、日本には丹精こめて育てられたブランド和牛が全国に約300銘柄以上も存在し、さらに、A5などの格付けだってある。この時点で、故意に分かりにくくすることで消費者に損をさせようとしていないか? などという疑念すら沸いてくる。そこにきて海外で育った”外国産の日本の和牛”というような話を聞くと、味わう前に定義やルールに振り回されて「所詮、高級な和牛には、ご縁もないし」と、探究心が折れそうに。実際、こうした知識の話をしても「何も知らなくても、美味しく食べられるのならそれでいい」という声があるのも事実だ。

 

しかし本当にそれでいいのだろうか? ここ数年日本では空前の肉ブーム。私たち消費者にとっては、安くて美味しい牛肉が味わえるのはとても喜ばしいことだが、安価な国産牛は、「成型肉」の場合が多い。成型肉とは、細かくなった肉片をいろいろな製造過程を経て整え流通されている。また、国産牛に黒毛和種など和牛の牛脂を基にした注入剤を注射し、霜降りに見えるようにしているものも、成型肉の一種だ。
「えーー! そうなの?!」「騙されたーー」そう思った読者の方も多いかもしれない。しかし、これはだまし、偽装ではない。提供する店側には「加工しています」などの表示義務があるため、「成型肉」であることを見逃しているのは、私たち消費者なのだ。

前編でお話したように、和牛はとても手間暇がかかる。と同時に1頭あたりにかかる費用も当然はねあがる。しかし、そんな中でも安心安全な和牛が少しでも安い価格で消費者の食卓に並ぶよう農家が日々努力を積み重ねていることを、改めて知ってほしい。

三ヶ月日本で育てば国産牛?

外国で育った和牛が、海外で和牛と呼ばれ、食べられているのは“だまし”なのだろうか? そもそもなぜ外国に和牛や国産牛がいるのか?
消費者庁の食品表示を調べてみると「国産 牛」とは、国内における飼育期間が外国における飼養期間)より長い家畜を国内でと畜して生産されたものとされている。海外より長く国内で育てば国産牛。腑に落ちない気もするが、規約にある以上仕方ない。ただ過去にはこんな時期もあった。外国から生きたまま輸入した場合に、輸入した日から3ヶ月超飼育した後は、国産品として扱ってOKだったのだ。しかし、この「3ヶ月ルール」は平成16年9月14日に削除されている。当然の結果だ。
とはいえ、この期間はスーパーで堂々と国産牛というシールを貼られた外国育ちで3ヶ月だけ日本にいた牛を、国内でより長く育ったはずと思って(もしくはもう日本生まれ日本育ちと勝手に信じて)食べていたはずだ。3ヶ月ルールは消えたが、いまだなお、長く育った場所を産地として表示する ことができるのが国産牛なのだ。

和牛が日本に逆輸入されている

外国種の影響を受けていないとされる生物学的に純粋な日本の牛は、口之島牛(鹿児島県に生息する野生牛)と見島牛(山口県で飼育されてきた天然記念物)だ。だがこれは基本的に食肉用 にされることはない。市場で流通する先に述べた和牛四種は、明治時代から外来種の血統を導入して出来上がった究極の食肉専用の品種だ 。
逆に考えれば、和牛の血統が確立された牛であるならば、オーストラリアに雌の黒毛和種を輸出して、さらに黒毛和種の種雄牛の精液を取り寄せて人工授精で子牛を作ればいいことになる。実際、平成9年から10年にかけて、和牛の生体128頭、精液1万3000本がアメリカに輸出され、それがオーストラリアに渡って今、育てられているのだ。
この牛たちをおいしく育てるために、日本と同様に牧草ではなく穀物を中心に与えて育てれば、脂肪が白く、肉質が軟らかい、そしてうま味成分が多い牛になる可能性は高くなる。ちなみに和牛は世界でも類を見ない、味と軟らかさを追い求めた、究極の穀物肥育牛とも言われている。
こうして育った外国産の和牛が、日本に逆輸入されており、WAGYUとして海外の食市場でも活躍中なのだ。ただし外国産の和牛は、ガイドラインにより日本では「和牛」がつく表示はできない。一方で外国に輸出される日本産の本家(?)の和牛には、設定された和牛統一マークにより、海外でも選別できることなっている。

守りたいけれど、世界に広めたい和牛

本来の美味しさが世界にきちんと伝わることは大切だが、実際「WAGYU」と聞いて、どれぐらい海外に浸透しているのだろうか? 現地のハウスワイフたちに聞いてみた。
「WAGYU? 日本の牛のこと? うーん、夏に送ったBBQの写真の肉はオージービーフよ」(メルボルン在住のオーストラリア人女性)
「WAGYUはおいしいよね。大好き。産地? オーストラリアだったかな?」(シンガポール在住)
「WAGYUは知っているよ。オーストラリアの肉だよね。おいしいよ」(イタリアのバルの店員)

 

 

牛肉は日本の消費者ですら正しく区別していない(できない?)のだから、海外では、なおさら気にしないで食べられているのかもしれない。しかし海外で“WAGYU”というと日本の牛のことではなく、オーストラリア産の牛肉の認識があることに驚く。われわれ日本人にとってWAGYU=和牛 このように、すぐ脳内で日本の肉という変換をするが、世界でWAGYUといえば、日本人がイメージする和牛ではなく、オーストラリアで育った牛のほうが広く認知されているのが現実だ。
先にシンガポールでWAGYUのはなしをしてくれた海外の友人は、日本で焼肉を食べたときにこう言った。

 

「日本のお肉はやっぱりおいしい」。

 

これが本当の“和牛”であること、WAGYUとの違い、国産牛、和牛の説明をしたが、その説明に友人たちは驚いていた。しかし、もともと友人たちにWAGYU=日本の肉 という認識がないためなかなか伝わりにくかったが。

 

 

では、われわれ肉好きは今度どのようにして和牛を守っていけばよいのだろうか。
まずは、和牛について日本の消費者である私たちがより肉のことや和牛のことを知ることが大切だ。そして、日本生まれ、日本育ちの和牛を品質と信頼度の高さで、WAGYUは和牛であり、日本のブランドであることの認知拡大。
「安くて、おいしければいい」から一歩踏み出し、2020年東京五輪が開催されるころには、より多くの外国人に「本場で本物のWAGYUを食べに、日本に行きたい」と言ってもらいたい。

 

<参考文献>
「肉で食育する本」毛見信秀
「だまし食材天国」武井義雄

 

(文:三宮 千賀子+編集部)