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2016.12.12

牧場探訪「福永牧場」(前篇)

黒毛和牛の産地といえば、三重県(松阪牛)、兵庫県(神戸牛)、滋賀県(近江牛)等をイメージする人が多いはずですが、黒毛和牛飼育頭数のナンバーワンは、じつは鹿児島県です。

鹿児島県産の和牛は、ブランド化される時期が他県より遅かったためか、知名度こそ低いものの、有名ブランド牛にも劣らない肉質を誇っていると食通の間では高く評価されています。今回はそんな畜産王国・鹿児島で「北さつま牛」のブランド化に尽力し、2013年度全国肉用牛枝肉共励会で名誉賞(最高賞)を受賞したこともある「福永牧場」に注目してみました。

牧場探訪「福永牧場」(前篇)

リスク覚悟でチャレンジすることがこれからの畜産には必要だ

「さつま福永牧場」は、温暖な気候と豊かな自然に恵まれた鹿児島県北部の“薩摩郡さつま町”にあります。さつま町は古くから子牛生産が盛んな地域として知られ、特に平成2年に誕生した「平茂勝(ひらしげかつ)」は畜産業者の間で種雄牛として人気が高く、現在、全国(兵庫県を除く)で肥育されている黒毛和牛の約半数は「平茂勝」の遺伝子を受け継いでいるといわれています。
良質な子牛の供給地としては、それなりに名前を知られていたさつま町ですが、一昔前までは小中規模の畜産農家が多く、大規模な肥育事業を行っている農家はまだほとんど存在しませんでした。そんな地域に新しい風を吹き込み、肥育事業の拡大化、「北さつま牛」のブランド化を押し進めるきっかけを作ったのが、今回お話をうかがった福永充さん(福永畜産社長・49歳)です。

 

福永さんは東京の大学を卒業してサラリーマン生活を一年間経験し、24歳の時に実家の畜産業を継ぐことになったそうですが、就農時の牧場の飼育頭数は60頭(肥育牛50頭・繁殖牛10頭)足らずだったといいます。

 

「オヤジに“地元に帰ってきて畜産を手伝ってくれ”と言われて実家に戻ったものの、60頭の規模では専業で畜産経営を続けていくのは難しいと感じました。そこで事業拡大へと舵を切ることにしたのですが、最初は資金繰りの面で苦労しましたね。JAからの借り入れだけでは、拡大路線を軌道にのせるのはとうてい無理なんです。迷った末にまずは平成11年にJAを離れて牧場を法人化することにしました。それを機に地元銀行からの融資が可能となり順調に頭数が増えていったんです。JAに頼っていた時代と比べると、大きなリスクを背負うことになりましたが、どうせやるのなら将来を見据えて本気でチャレンジすべきだと思ったんです」。

一人の力では不可能なことも仲間がいれば可能になる

福永さんは、やがて近隣の同世代の牧場経営者たちに声をかけて「北さつま牛」のブランド化にも取り組みはじめます。

 

「個人の牧場がいくら良質の牛を育てて、ブランド牛を名乗ったところで、安定供給できなければ意味がありませんからね。まずは仲間を集めて一定レベルの和牛を共同出荷できる体制を作ろうと考えたんです。それからは5人のメンバーで毎週のように集まって「良質の牛を育てるためにはどんな飼料や環境が適しているのか? これからの牧場経営には何が必要なのか?」といったことを熱く議論する日々が続きました。そして平成19年「北さつま牛和牛倶楽部」という組織を立ち上げて、本格的にブランド牛としての出荷がスタートしたんです」

 

メンバー同士が良きライバルとして、牧場の大規模化・近代化を競い合うなか、各自の牧場は順調に発展をとげ、福永牧場もいつの間にか肥育牛1,200頭、繁殖牛200頭を抱えるまで大きくなっていったといいます。

 

現在、鹿児島産のブランド和牛「北さつま牛」は首都圏にも流通していますが、東京進出の足がかりを作ったのも、福永さんだったようです。

 

「当時は鹿児島県の和牛は、九州や関西圏を中心に消費されていて、東京にはほとんど出荷されていませんでした。でも本気で牛を育てるのなら、やっぱり日本一の大消費地である東京で勝負したいじゃないですか。それで平成17年に知り合いのツテを頼って芝浦の食肉市場に売り込むことにしたんです。軌道に乗るまでの7年間は牧場の仕事の合間を縫って、東京と鹿児島を毎週のように往復していましたね」。

 

福永さん自らがわざわざ東京の市場に毎週足を運んだ理由は「北さつま牛」というブランドにプライドを持ち、他の産地のブランド牛には負けない肉を作りたいという想いがあったからだとか。

 

「いくら見た目は大きく立派に育った牛でも、市場で解体されて枝肉になった状態を自分の目で見て、自分の舌で味わってみなければ、本当の肉の良し悪しはわかりませんからね。良質なブランド牛を作るためには、そうした情報を地元に持ち帰って倶楽部の仲間たちと共有し、肥育技術にフィードバックさせていくことが必要だと考えたのです」

 

福永さんの努力の甲斐あって、徐々に「北さつま牛ブランド」は東京でも認知されるようになり、現在は「クィーンズ伊勢丹」のほか人形町の「今半」、「醍醐Luz 大森店」など、取引店舗の数も着実に伸びてきているようです。
続く後篇では、北さつま牛の美味しさの秘密についてうかがいます。

 

 

(取材・文:中村 宏覚)

福永牧場

〒895-2104

鹿児島県薩摩郡さつま町柏原1566-1

  • 0996-59-8911
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