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2017.01.25

食と科学のおいしい関係(13)

冷凍した肉をどうすればおいしく解凍できるのか? せっかくの肉を解凍の失敗で台無しにしたことは、誰でも経験あるはず。科学的に正しい解凍法、それは氷温解凍でした。

食と科学のおいしい関係(13)

私、解凍に失敗しないので

冷凍肉の解凍は難しい。電子レンジの解凍モードに満足している人はまずいないでしょう。あれは解凍というより調理です。それも大失敗の調理で、肉の端が煮え、肉汁は流れ出してしまいます。調理済みの食品なら良いでしょうが、生肉にはまったく向きません。

 

室温での解凍や流水解凍はドリップが大量に出ます。ドリップは肉汁のうまみそのものですから、肉のジューシーさや味わいが損なわれます。解凍時の温度が高いため、細菌が増えやすく衛生上の不安があります。どうすれば正しく解凍できるのでしょうか?

 

公益財団法人 日本食肉消費総合センターは、1~3度で15~30時間をかけて解凍する方法を勧めています。食べる前日またはは当日の朝に冷蔵庫に移し、ゆっくり解凍させれば肉の質はあまり変わらないのだそうです。

 

最近、正しい解凍法として広まっているのが氷温解凍。ボウルなどに氷を入れ、フリーザーパックに入れた冷凍肉を中に沈めて解凍します。そのまま冷蔵庫へ入れたり、発泡スチロールの容器などで断熱できればなおいい。

東京海洋大学 食品冷凍学研究室によると、冷蔵庫での解凍は表面温度と内部温度に差が大きく、解凍に非常に時間がかかります(マグロの場合、8時間経過後も中心温度はマイナス37度)。

冷凍の際に氷結した水分が細胞膜を突き破り、組織内のタンパク質やビタミンなどが流れ出したものがドリップです。ドリップの量は温度が高ければ高いほど増えるので、内部が解凍されるまでに表面部からはドロップが流れ出すことになります。

温度と経過時間により、筋肉を動かすATPはイノシン酸やヒポキサンチンへと分解されます。K値はその割合を表す数値で、値が大きければ分解がより進んでいることになります。より新鮮な状態で解凍を終えるには、K値が低い方がいいわけです。

イノシン酸はうまみ成分なので、新鮮だからおいしいとは単純には言えませんが、品質変化を極力抑えて解凍することは、解凍法として正解でしょう。
氷温解凍と冷蔵解凍を比較すると、氷温解凍は解凍速度が倍以上速い上に、K値の上昇がよりゆるやかでした。水は空気よりも熱伝導率が高いために氷温解凍の方が早く溶け、そのために内部温度も同時に上昇、しかし氷漬けなので零度以上には上がらないため、ドリップが余計に出るようなことはありません。

 

実際にやってみた

実際に氷温解凍はどれほど有能なのか? ステーキ肉を買ってきて試しました。

 

売られていた肉は解凍済みだったので、再び冷凍します。丸1日かけてカチカチに凍ったところで、半分を冷蔵庫でゆっくりと解凍、半分を氷温解凍します。

およそ4時間でどちらも解凍できましたが、驚いたのはドリップの量です。冷蔵庫で解凍した肉は、少ないながらもドリップが出ていました。肉を冷蔵していると翌日にはドリップがたっぷり流れ出てしまいますから、当然と言えば当然です。
しかし氷温解凍! こちらはゼロです。ドリップがゼロ。まったく出ていないので、凍っているのかと勘違いしたほどです。これはすごい。

焼くと違いは歴然。冷蔵庫で解凍した肉は、おいしいのですが軟らかくなっている。良く解釈すれば、ATPがイノシン酸に変わって熟成され、おいしくなったとも言えます。一方の氷温解凍、信じがたいことに肉質がまったく変わっていません。肉の弾力が冷蔵解凍とは別物です。

 

好みはあると思いますが、鮮度をそのまま保って解凍するのが正解だとすれば、氷温凍結の勝ちです。買ってきた肉もすぐに食べないのなら即座に冷凍、調理する半日前に氷温解凍すれば、冷蔵よりもはるかに鮮度が良い状態で食べることができます。

 

しかし冷凍しても、肉の味は損なわれないのでしょうか? 肉の味が落ちるなら、肉の冷凍自体が間違っていることになります。
石川県農業短期大学(現在閉校)の畜産物利用学研究室によると、適切に冷凍し、解凍時にドリップさえ流れ出なければ、筋繊維の収縮や小片化率、保水性などは大きくは損なわれず、官能評価でもネガティブな結果は出ませんでした。肉の冷凍保存では、味はほぼそのまま維持できると考えて良いようです。

 

ただし家庭で塊肉を冷凍することは避けましょう。冷凍にも解凍にも時間がかかるため、内部と外部の温度差からドリップが出てしまい、うまみが失われてしまうからです。調理するサイズに切ってからの保存をお勧めします。

川口 友万

川口 友万

福岡県福岡市出身。富山大学理学部物学科卒。サイエンスライター。「ホントにすごい! 日本の科学技術図鑑」 (双葉社スーパームック)など著書多数。
毎週日曜日、五反田にて科学実験を体験できるバー『科学実験酒場』https://www.facebook.com/groups/kagakubar/ を開催している。