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2016.02.10

食と科学のおいしい関係(2)

化学反応や食品添加物で、今までなかった料理を作る分子ガストロノミー。そのジャンルで重宝されている物質、それがトランスグルタミナーゼです。

食と科学のおいしい関係(2)

牛、豚、鶏肉のステーキを作る

トランスグルタミナーゼは、タンパク質同士を橋渡してくっつけてしまう、タンパク質架橋化酵素の一種です。

 

タンパク質は多種多様なアミノ酸が複雑に絡み合ってできていますが、この酵素はその中のグルタミン残基(グルタミン酸がタンパク質に組み込まれる時に余った尻尾みたいなものです)とリジン残基をイソペプチド結合という、強い結びつきでくっつけます。

タンパク質とタンパク質の間に分子の橋を架けるので、タンパク質架橋化酵素と呼ばれます。

このトランスグルタミナーゼ、味の素がアクティバの商品名で販売しています。タンパク質であれば何でも結合させてしまうので、サイコロステーキや魚肉の練り物、うどんやそばなどにも使われています。

分子ガストロミーでは、スライスした野菜をシート状にしたり、アイスキャンディーのように固めるなどに使用し、目新しい料理を作り出しています。

 

でもタンパク質を何でもくっつけてしまうのなら、もっと別の使い方もできそうです。たとえば、牛肉、豚肉、鶏肉を全部くっつけて一枚のステーキにしたら? できるはずです、サイコロステーキができるんですから。

食べたことありますか、肉全部ステーキ? 食べてみたくないですか? 食べたいですよね?

 

味の素に電話すると、アクティバは業務用しか売っていない、正確には個人には売ってくれないということでした。だからアメリカから取り寄せました。いくらかかったか? 嫁に知られたらバカ扱いされる、そういう金額です。

届いたアクティバを見るとメイドインフランス。日本の企業がフランスで作っているものをアメリカから輸入して日本で使う? 眩暈がしそうです。世界は複雑です。

 

牛肉にアクティバを刷毛で塗ります。アクティバは白い粉末なので、小麦粉をはたく要領です。手に付いたので、何も考えずに頬で拭ったらえらいことになりました。トランスグルタミナーゼはたんぱく質同士をくっつける、つまり、タンパク質の端っこをほどいてしまうのです。これをわかりやすくいうと、「溶ける」と言います。

 

痛い。

 

当たり前です。頬が溶けているわけです。手が溶けているわけです。溶けると言っても、バターが溶けるように溶けるわけではありませんが、日焼けしたぐらいには痛い。

痛い、痛いと思いつつ、牛肉を鶏肉で挟み、そこにパタパタとアクティバをはたき、豚肉で押さえ、ラップでぐるぐる巻きにしました。これで約12時間が経つと、肉が合体してひとつの塊になるのです。

翌日、肉を出して切ると、なるほどくっついています。筋の部分などはアクティバに抜けがあったらしく、ブラブラしていますが、おおむねOKです。

 

結果は?

さっそく焼いてみます。うまそうです。塩コショウでシンプルに味付けし、試食しました。

……???

おいしい、のです。おいしいのですが、おかしい。豚と鶏と牛は味が違うのに、それが一緒にやってきているわけで、混乱します。が、おいしくないかといえば、むしろおいしい。

でもおいしいっていうのか、これ? マズくはないけど、何だろう?

‥‥ちぐはぐ。

でも、ちょっと新しいかも? 大胆なコーディネートってやつ?

 

 

不思議な合体肉。科学実験酒場のメニューに追加です。

川口 友万

川口 友万

福岡県福岡市出身。富山大学理学部物学科卒。サイエンスライター。
科学専門サイト『サイエンスニュース』の編集統括。
著書に『ホントにすごい日本の科学技術』(双葉社)、『みんなのための「ストレスチェック制度」明解ハンドブック』(双葉社)、『ビタミンCは人類を救う!!』(学研パブリッシング)、『あぶない科学実験』(彩図社)など。TV出演、講演も数多い。
毎週日曜日、武蔵小山にて科学実験を体験できるバー『科学実験酒場』を開催、週替わりで食に関する実験を行っている。

■科学実験酒場

https://www.facebook.com/groups/kagakubar/