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2016.04.11

食と科学のおいしい関係(4)

いつも行列ができるラーメン屋さんがあります。食べてもそれほどおいしくない。でも人が並んでいる。なぜなのか? 秘密は化学調味料と脂でした。

食と科学のおいしい関係(4)

行列ができるラーメン屋の秘密とは?

行列が絶えないラーメン屋さんがあります。他のラーメンと何が違うのか? 麺が違う、ダシが違う、仕込みが丁寧などいろいろありますが、総じて言えるのは、脂とダシです。
そうした人気店は、一般的なラーメンに比べて脂が多く、ダシが濃い店がほとんどでしょう(何事にも例外はありますが)。ラーメンが若い人たちに人気なのは、安上がりに大量の脂とダシを補給できるから、という言い方もできますね。

考えてみれば、脂とダシをそれなりにおいしく大量に食べようと思ったら、とんかつや焼き肉などになりますが、食費は高くなります。その点、ラーメンは破格に安い。より脂とダシが多い店に若い人たちが集まるのは、当然と言えば当然です。

 

それにしても彼らは並びます。ラーメンを食べるために寒空に何時間も並ぶなんて、ちょっとどうなのだろうと思います。栄養補給としてラーメンの効率がいいのはわかりますが、だからって何回も並ぶのは大人から見ると非常識に見えます。ラーメン中毒なんじゃないか?

ラーメン中毒、そんなものがあったら大変だと思いますが、その大変が本当にあるようなのです。

 

大量の脂とグルタミン酸が、脳に恍惚感を引き起こす

京都大学農学研究科教授・伏木亨の研究によると、脂肪を食べた時、脳の報酬系が興奮するのだそうです。おいしいものを食べるとβエンドルフィンが脳内に発生、ケシ(=モルヒネまたはヘロイン)の受容体であるオピオイド受容体に作用しておいしいと感じます。おいしいものを食べると気分が良くなりますが、あれは麻薬と同じ脳の回路=報酬系が使われるためなのです。

 

伏木教授はマウスにコーン油を与える実験を行いました。レバーを押すとコーン油が出るようにした給餌機を使い、レバーを数回押して初めてコーン油が出るようにします。

コーン油が出るまでに、必要なレバーを押す回数をどんどん増やしていきます。それが100回になっても200回になっても、マウスはレバーを押し続けるのだそうです。

 

<ケーキやパンやラーメンに並ぶ行列の長さと、マウスに課されたレバー押しの回数とはよく似ています><列の長さは並ぶ人の期待度を表しています>(新潮新書「コクと旨味の秘密」)。

 

ところが、コーン油に慣れたマウスにオピオイド受容体をブロックする薬を与えるとどうなったでしょうか? マウスは油にまるで興味を示さなくなるのです。

 

つまり脂には中毒性があるんです、それも麻薬並みの!

 

ダシにも同じような効果があるようです。

 

<小腸の細胞にはグルタミン酸と脂肪酸が<よく似た物質として認識される>(祥伝社ノン・ブック「魔法の舌」)。

 

これはグルタミン酸と脂肪酸の構造がよく似ているためらしい。油分の少ない日本料理に日本人が満足できたのは、ダシの力が大きいと考えられます(ただし味の素の研究では、うま味に習慣性は見られなかったそうです。どちらが本当なのか、今後の研究が待たれます)。われわれは大量の脂とグルタミン酸によって、脳に恍惚感を引き起こされていたのです。

 

つまり、ラーメン屋さんを繁盛させようと思ったら、大量の脂と濃いダシ、天然にこだわる必要はまったくなく、化学調味料を山ほど入れればいいということになります。なおアミノ酸には味の閾値がないため、いくら増やしても、一定量からは舌は味を感じなくなります。塩や砂糖ではそういうわけにはいきませんが。

ストレスがかかると、妙にコーラやピザなどジャンクな食べ物を欲しくなりますが、これも同じ作用だと考えられます。コーラの場合、脂もダシもありませんが、代わりに大量の砂糖が入っています。大量の砂糖は血糖値が急上昇させ、酩酊状態に。脳を麻痺させるという意味では、脂、ダシ、糖の3つが揃えば、完ぺきでしょう。

 

逆に言えば、ストレスがかかっている時は脂、ダシ、糖の3つをまとめて摂ると、快楽神経が刺激され、ストレスが緩和されるわけですね。落ち込みそうだなと思ったら、ぜひアブラギトギトラーメンを食べましょう!

 

川口 友万

川口 友万

福岡県福岡市出身。富山大学理学部物学科卒。サイエンスライター。
科学専門サイト『サイエンスニュース』http://sciencenews.co.jp/ の編集統括。著書多数。
毎週日曜日、武蔵小山にて科学実験を体験できるバー『科学実験酒場』を開催、週替わりで食に関する実験を行っている。

■科学実験酒場

https://www.facebook.com/groups/kagakubar/