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2016.05.20

イエニクのススメ から揚げ編 第3回

イエニク2ndシーズン。「大人の肉ドリル」でおなじみ、松浦氏がお家でおいしいお肉料理を満喫できる肉レシピを公開!

イエニクのススメ から揚げ編 第3回

必要な調理・加熱とその意味・目的

さて「から揚げ」という以上、もっとも大切な工程はもちろん「揚げ」である。

 

肉は加熱すると筋繊維が縮む。とりわけ60℃を超えたあたりから激しく縮む。すると繊維のなかに抱えられていた水分が絞り出される。肉の温度を上げ過ぎると、ジューシーさは失われるし、食べごたえがかたく感じられるようになる。

そのために下ごしらえの段階で加水しておくのだが、鶏肉の場合、食味だけに集中するわけにはいかない。鹿児島など鶏肉を生食する地方の習慣が広まって、つい最近まで日本人は鶏肉を刺身で食べることに慣れてしまっていた。

だが、鶏肉には食中毒の原因菌、サルモネラ菌やカンピロバクター菌が潜んでいる。実際、流通する国産鶏肉のうち、なんと6割以上がカンピロバクター菌に汚染されていたという調査(食品安全委員会微生物・ウイルス専門調査会2009年)もある。日本人が考える以上に鶏肉は加熱が必要な肉なのだ。

 

殺菌の基本的な考え方は、加熱する温度×時間の積算が基準になる。約数分というから揚げの加熱時間なら70℃、つまり肉の色が白く変わるくらいが目安になる。この微妙な加減を狙った加熱が必要だが、一気に加熱すると「安全でおいしい」温度帯でピタリと止めるのは、難しい。季節や状態によって、揚げる前の鶏肉の温度も、揚げはじめの油の温度も、鶏肉を入れた後の油の温度変化だって毎回違う。

 

そこで加熱の回数を分割する。一気に加熱するのではなく、「揚げ」→「休ませ」と数回にわけて揚げる。高温で揚げ続けると肉の中心が70℃になる頃には表面は黒焦げになってしまう。かといって、低温で長時間揚げるのは温度コントロールが難しく、から揚げならではの衣の香ばしさとガリッとした食感が得られにくい。高温×短時間×複数回という手法なら、「適度な焦げと強い食感の衣」と「全体に均一に加熱されたジューシーな身質」が両立できる。

 

「揚げ」と「休ませ」で自分史上最高から揚げが完成!

「揚げ」と「休ませ」を繰り返すと、揚げた直後は「衣が熱く、中が冷たい」状態だったのが、休ませているうちに表面と内部が均一に温まる。これを繰り返すことで、揚げムラリスクが少なくなる。最後にもう一度、表面をカリッと揚げればできがり。

手がかかるように思えるかもしれないが、2人分くらいまでなら油から引き上げたからあげを休ませている間に、他の作業をすればいいし、4~5人分でも最初に揚げた分を休ませている間に、次の肉を投入すればいい。

 

という方法を『大人の肉ドリル』で紹介したところ、さすがにから揚げは人気メニューだけあって、たくさんの方に試していただいた。ありがたいことに「自分史上最高から揚げ!」とホメてくださる方もいらした。

揚げの基本として覚えておきたいのは「初回、油に投入するときには、衣同士がくっつかない場所に入れる」ことと「投入後、30秒はさわらない」こと。いずれも衣同士のくっつきや、はがれ防止のための知恵である。

 

プロのから揚げ店では、揚げたから揚げを網などで持ち上げ、衣を空気に触れさせるという手法が使われる。「空気をかます」などと言うが、この工程で衣に含まれる水分が飛んでサクッとした食感が強化されるという。ただし、揚げの回数を分割する方法なら、休ませている間に同じ効果が期待できる。

もっともすべてに通底することだが、から揚げにもプロ・アマ含めてたくさんのつくりかたがある。そこから自分なりにエッセンスをすくいあげる。次回、から揚げのレシピを紹介するが、あくまでも僕が好きなから揚げのレシピなので、ぜひご自身の好みに合わせてカスタマイズしていただきたい。そして「もっとうまいから揚げができた!」と思ったら、自慢ついでに僕にも教えて欲しい。そうした試行錯誤の連続で、日本の家庭料理は安全においしくなっていくはずなのだ。

松浦 達也

松浦 達也

東京都武蔵野市生まれ。編集者・ライター。さまざまな「食」を「食べる」「つくる」「ひもとく」フードアクティビスト。調理の仕組みや科学、食文化史などを踏まえ、『dancyu』などの料理誌から一般誌、新聞、書籍、Webまで幅広く執筆、編集を行う。テレビ、ラジオなどでは食のトレンドやニュース解説も。近著の『家で肉食を極める! 肉バカ秘蔵レシピ 大人の肉ドリル』(マガジンハウス)ほか、自らも参加する調理ユニット「給食系男子」名義で企画・構成を手がけた『家メシ道場』『家呑み道場』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)はシリーズ10万部を突破。

ブログ「うまいものばか!」

http://umaimonoholic.blogspot.jp/