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2016.06.09

あの人のけしからんレストラン「味坊」

教えたいけれど教えたくない、でも仲のよい人には教えたい!
そんな名店を食通がリレー方式で紹介していきます。

あの人のけしからんレストラン「味坊」

紹介してくれた人 武井 義明さん

マンガのお肉、というのがある。
巨大な肉塊から骨が飛び出ているアレである。
もっともマンガの中では
(たいていそういうのが出てくるのはギャグマンガなので)、
くわしい調理法や味が紹介されることはなく、
直火で炙ったような巨大な塊を、ろくに味付けもせず、
手で掴んで歯を立ててぐいーんと引っ張り、
齧り取ってむしゃむしゃ食べたりしていた。
今考えればそんなにうまいものでもないのだろうけれど、
こども心には強烈な印象だった。

 

おとなになって外国を旅するようになって、
マンガのお肉らしきものを見つけては食べるようになった。
ドイツのアイスバイン、チェコの骨付き燻製肉、
それからちょっとスタイルが違うけれど
イタリアのオーソブッコもそうだ。
スペアリブは、肉が骨にへばりついているような印象のうえ
(つまり肉が足りないような気がする)、
アメリカ的なBBQソースが苦手であんまり食べていない。
そしてスペインの生ハムは、あまりに巨大すぎて、
骨ごとテーブルにのせたことがないのが残念である。

 

自分で調理するときも肉はなるべく骨付きを選ぶ。
自分も楽しいのだけれど、
いっしょに食べるものが喜ぶのが嬉しい。
獲物を焚き火で焼いてみんなで食べた
狩猟採集社会の頃の祝祭の記憶が、
もしかしたら、どこかに残っているのかもしれない。

 

東京のレストランでそんな肉に巡り合うことは
なかなかないのだけれど、神田の「味坊」にはある。
ここは黒龍江省出身の料理人、
梁(りゃん)さんがやっている
中国東北料理の専門店である。
もともと羊肉がうまいのだが(クミン炒めも最高だ)、
この「骨付き羊背肉の塩煮(手把肉)」は
もともと定番ではなく黒板メニューで、
あったらラッキー! と、
必ず頼むことにしていたのだが、
どうやら人気が出たらしく、最近は定番に昇格した。

 

ほっかほかに湯気のあがったかたまり肉。
じつにシンプルな塩煮である。
そのままがぶり、と行きたいところだが、
ここの流儀はちがう。
代表者が調理用の使い切り手袋をつけて、
あぢぢぢぢ、と骨から肉を外すのだ。
ほろほろと身離れのよい肉なのでそんなに難しくないが、
なにしろ熱い。それを見ているのも、じれったくて楽しい。

ほぐした肉は、調味塩、にんにくダレ、ゴマダレの
いずれかをつけて食べる。
けれども「塩煮」なので、そのまま食べてもおいしい。
しっかり弾力をのこして煮てあるから食べ応えがあり、
骨に近いところと周辺のところの味の違いだとか、
軟骨なのか筋なのか、ぷるぷるした感じの部分もいい。
うまいうまいと、あっという間に皿が空になる。

 

「味坊」のいいところは、
安くてうまい自然派ワインが揃っているところだ。
いろいろ食べたい料理があるので、
すくなくとも4人、できれば6人集めて行くようにしている。
肉を囲んでワインをぐびぐび飲んで、たくさん笑っていると、
どんどん元気になってくる。そして翌朝の目覚めが
すっきりしていることといったら!

 

「味坊」はぼくにとって、いつだって祝祭のレストランなのだ。

味坊

〒101-0044

住所:東京都千代田区鍛冶町2丁目11−20 共同ビル 1・2F

営業時間:(月~土)11:00~14:30/17:00~23:00(日・祝)15:00~21:00

休:無休

  • 050-5872-2126 (予約専用番号)

武井 義明さん

武井 義明さん

編集者。ニックネームは“シェフ”。

大学卒業後、旅行ガイドブックやインテリア情報誌などの編集に携わる。旅行ガイドブックの編集者時代も含め、これまでに北米、中米、南米、アジア、中欧、西欧、30カ国150都市以上を訪れている。好きな旅先はフランス・パリ。雑誌CREAにも「パリ馬鹿編集者」として寄稿している。著書は『調味料マニア』『MOONRIDERS PHOTOGRAPHS』『フィンランドのおじさんになる方法。』など。料理関連書籍も多数編集している。